変容する家 | 東アジア文化都市2018金沢

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STORY

金沢を工事中 ─ 川俣正 Kanazawa Squatters Project 2018 ─

川俣正作品の展示設営作業にボランティアスタッフとして関わった 嵯峨美術大学の学生によるレビュー


嵯峨美術大学 桒嶋壮志(造形学科油画領域2年生)

高校生の頃からの憧れのアーティスト、川俣正のKanazawa Squatters Project 2018 に参加した。金沢21世紀美術館に近いビル全体を使い、金沢市内や美術館で出た廃材で、作家はもとより、私たち学生、川俣の制作を技術的に補助する鈴木事務所のスタッフ、地元ボランティアの方々が共同で制作した。今までの作品と同じく場所、素材、人を大切にした作品だ。実際に参加して初めて、普段は見ることができない作家の内幕ともいうべき、作品を作っていく流れ、作品に対する考え方、大切にしていることを知ることができた。例えば、毎日制作前にチーム全員が集まり、川俣が作品その日の到達目標について話し、チーム内でこれを共有する。作家の考えを知ることで、自分たちが単に廃材を積み上げていくだけの参加者ではないことに気付いた。

 

川俣のワーク・イン・プログレスには、作品を川俣以外の参加者に作らせる部分がある。今回も川俣自身があえて手をかけず、私たち学生が作家の意図を考えながら作っていく部分があった。これを体感して思ったことは、ただ見るだけでは川俣の作品を理解したとはいえないということだ。作家の考える素材、場所、チームと直に関わることによって、作品をより深く理解できる。私たちにも川俣に作品を任されることによって責任感が湧き、自分の作品のように制作していく気持ちが生まれた。一人では作れない大型作品だからこそ、互いに協力し、個々人が意見を出し合い、作品が形作られていく。話し合いの過程で他者の見方を知り、新たな視点で作品を見ることもできた。

 

今回も川俣の作品でありながら、本人一人の手で出来たものではない。作家を中心に関係性がつくられ、作品ができ上がった。作品の材料も制作する人も、金沢に集まった。金沢でしか作ることができない、金沢でしか見ることのできない作品になった。プロジェクトに参加していない、偶然作品の前を通りかかった人には、ビルに無造作に木材が打ち付けられているだけに見えるかもしれない。しかし近くで作品を見れば、ディテールから作品の制作現場を想像することができる。例えば、木の組み方、順番を見ても作家と参加者の対話が聞こえてくる。また、展示ビル2階にある川俣自身による作品ドローイングにも、素材配置の試行錯誤のあとを見ることができ、作家が建具を含む様々な種類の廃材を組み上げていったプロセスを追体験できる。作品のある現地に足を運べば、川俣と金沢の関わりについて実感できる、またとない機会となるだろう。