変容する家 | 東アジア文化都市2018金沢

Menu Close
ARTISTS
石引エリア

山本 基

YAMAMOTO Motoi
[参考画像]《常世の杜》 2011, 箱根・彫刻の森美術館での個展「しろきもりへ」でのインスタレーション, © Yamamoto Motoi, Photo: Morisawa Makoto

[参考画像]《常世の杜》 2011, 箱根・彫刻の森美術館での個展「しろきもりへ」でのインスタレーション, © Yamamoto Motoi, Photo: Morisawa Makoto

アーティストステートメント

《紫の季節》

1994年、妹が悪性脳腫瘍妹で亡くなったことを契機に、一貫して彼女の想い出に再び出会うために制作を続けてきた。そして2016年には妻が4歳の娘を残しこの世を去った。乳癌だった。私はこれらの体験を踏まえ、癌患者や家族のための支援施設が入居するビルで制作することを決めた。

作品《紫の季節》は、強い生命力を感じさせる草花や樹木をイメージした有機的な文様で構成する。長年使い続けている塩を用い、紫色の床に繊細なパターンを何日も掛け、ひとりで描き上げる。

私は紫色の花々が咲き乱れる春のような景色をここに集う患者や家族、大切な人を失った方々、そして若くしてこの世を去った妻や妹に贈りたい。私は春の花の中でも路肩に咲くスミレや、つるを絡ませながらたくましく育つ山藤、そして桜の華やかさとは異なるしっとりとした紫木蓮に惹かれる。紫色の花々には可憐さだけでなく、逆境を生き抜く力があるように思う。

会場は亡き妻と20年近く暮らした、かつて紫錦の陵-紫錦台-と呼ばれた高台に位置している。この辺は私たちの散歩コースで幾度歩いたか知れない。すぐ近くに建つ教会前の木蓮の花片を見ると春の訪れを感じ、心なしか足取りも軽くなったことを思い出す。

11月には妻の三回忌を迎える。妻と歩いた道や、彼女が病と共に生きた時間に思いを馳せながら、床に座り、静かに線を描きたいと思う。そして出来ることなら、誰もが春に感じる勇気や希望を、作品を見てくださった皆さんに持ち帰って頂きたい。

尚、会期最終日には皆さんと共に作品を壊し、その“塩”を海に還すプロジェクトを行う予定である。

山本基

Photo: Stefan Worring
Photo: Stefan Worring

1966年広島県生まれ、石川県金沢市在住。1995年金沢美術工芸大学卒業。若くしてこの世を去った妻や妹の思い出をテーマに、床に塩で巨大な模様を描く。展示後は鑑賞者と共に作品を壊し、塩を海に還すプロジェクトを実施。金沢21世紀美術館の他、MoMA PS1、エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク)、東京都現代美術館等で作品を発表している。