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金沢21世紀美術館

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芸術交流共催事業「&21+」 2023年度共催事業選考結果及び選考委員会総評

採択事業団体(50音順)
・K-zone.
 事業名:《“祈りの音”を聴く〜Listen to the Sound of Player》
・Noriko Okaku and Helen Papaioannou(尾角典子、ヘレン・パパイオアノ)
 事業名:《Live Audiovisual Performance That Long Moonless Chase /その長い月のない追跡》
・「ランニングと水」実行委員会
 事業名:《ランニングと水ー周回遅れのトップランナー(仮)》

選考委員会総評
「&21+」としては初めてとなる公募には35件の応募が寄せられ、クオリティが非常に高く、既成のジャンルにとらわれない多様で実験的な応募事業が数多くありました。
選考にあたっては、次の4つが評価基準となりました。
・独自性/創造性……内容が現代的で独自の視点を持ち、新たな芸術創造につながるか
・地域性/交流性……まちや人と交流することで、新たな変化や刺激が生じるか
・批評性/現代性……「いま」行われる意義があり、現代への批評性を含んでいるか
・実現性/現実性……十分に検討された実現可能な企画であるか
これらの評価基準を総合的に勘案した厳正なる審査の結果、K-zone.、Noriko Okaku and Helen Papaioannou(尾角典子、ヘレン・パパイオアノ)、「ランニングと水」実行委員会の3団体が2023年度共催事業として選出されました。

次は、各選考委員(50音順)による総評となります。

太田浩一委員
審査会は、久しぶりに委員が一同に介して実施され、 スムーズな意見交換を経て審議が行われました。《ランニングと水(仮)》は、金沢の水環境フィールドワークが「まち中ランニング」体験の中で行われます。当地は幸い水資源に恵まれていますが、世界では喫緊の環境課題の一つです。新たな気づきとなるコンテンツ化がされるでしょう。《That Long Moonless Chas》ではライブ演奏とアニメーションにより、英国シェフィールドと京都の民話イメージのマッシュアップパフォーマンスが展開されます。《”祈りの音”を聴く》は松島港(宮城県)で行われる東日本大震災”追悼の汽笛”のサウンドインスタレーション作品。いずれも、新装なった「&21+」のラインナップとして期待できるでしょう。

岡田利規委員
わたしは《”祈りの音”を聴く》を最も推しました。プロジェクトのコンセプトが力強く美しく、なおかつ表現そのものもきっと鑑賞者に浸潤していくものであるだろうとイメージできたからです。《ランニングと水(仮)》も、体験することによって金沢というまちの見え方が根底から変わるであろう、おもしろそうなプロジェクトなので推しました。採択されたもうひとつのプロジェクト《That Long Moonless Chase》も楽しみです。審査会ではおもしろい議論ができました。とりわけ保守化した実験性、なるものをめぐるやりとりは簡潔なものでしたが実に有意義なものでした。

川崎陽子委員
「&21+」というより多様かつ横断的な表現を支援できる枠組みとなったことで、今回の申請には金沢という土地で実施することによりさらにプロジェクトの枝葉を広げていけるような意欲的なものが多かったです。選出された3プロジェクトは、いずれも実験的・領域横断的でありながら金沢21世紀美術館での実施ならではの要素を含んでいます。表現における先端性と地域性の、批評性を伴うかけ合わせに大きな期待を持てるラインナップとなったと考えています。

澤隆志委員
突然のコロナ禍で一斉にゼロベース対応、3年経ってそれぞれが徐々に"普通"を上書きしている中、美術館の公募も「+」されました。新しい枠組みに立ち会える喜びを噛み締めつつ、専門領域を持つ選考委員の皆さんと時折確認しあったのは、”革新の保守”になっていないか?実験性、先進性、多様性、領域横断の"こうあるべき"が固定しちゃってないか?でした。自分にも返ってくるブーメランであるため、スリリングかつ実り多い1日でした。採択された3組の方々にも刺さるかもしれません。あっさりはね返していただけるかもしれません!

JEMAPUR委員
応募された作品を通じて、異なった背景を持つ様々なつくり手たちが捉える「いま」という現象と、それを軸に展開されるそれぞれ表現に宿る独自の視点に触れることで、「いま」をより多視点からのぞき見ることが出来、非常に刺激的で興味深い体験でした。
今回選出された3作品が、金沢21世紀美術館を舞台に、如何にして地域と相互に作用しながら育まれ、現象化されていくのか。そしてそれを体験した人たちがどんな連鎖反応を生み出していくのか。今から期待しています。

長谷川祐子委員
今回の「&21+」はより多様な表現にむかって、美術館をひらいていく試みの第一回です。シアターだけでなく、美術館のパブリックスペースをヴェニュ候補にすることで、単一のジャンルに限らない複合的で、観客や参加者との立体的な関わりを含んだ内容の応募が見られたのは良かったと思います。現代美術館は完成され、洗練されたものだけでなく、実験的で発展途中の可能性を見せていくプラットフォームでもあります。例えば《ランニングと水(仮)》はパフォーマンスレクチャーと市内のランニングを合わせており、市内の水の流れというエコロジーの探索を兼ねています。「教えられる」ワークショップではなく、誰でも主体的に関われるプログラムの清々しさが評価されました。ほか、海外とのコラボや社会的な背景を芸術体験に昇華した作品など、制作者の視点の独自性や問題意識と方法論との自然な関係が評価されたと思います。