期間:
4月29日(火・祝) - 9月28日(日)
4月29日(火・祝) - 9月28日(日)
金沢21世紀美術館 展示室
7〜12、14
一般 1,200円(1,000円)
大学生 800円(600円)
小中高生 400円(300円)
65歳以上の方 1,000円
※本展観覧券は同時開催中の「コレクション展」との共通です
※( )内はWEB販売料金と団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
月曜日(ただし5月5日、7月21日、8月11日、9月15日は開場)5月7日、7月22日、8月12日、9月16日
金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
環境問題、紛争や戦争、貧困や経済格差、人種差別、性的マイノリティの権利、移民・難民問題、新しい感染症など、今日、人類は多くの深刻な問題と直面しています。しかし、我々は類似した問題の多くを過去にも経験してきました。一方で、この数百年という時間をかけて科学技術の進歩から社会的・文化的な発展まで、より良い未来のための土台を築いてもきました。このように私たちの今生きているこの世界は、過去の膨大な時間の重なりの上にあります。本展では、過去の歴史や記憶、現在という時間、あるいは未確定な未来について、様々な時間を取り上げることで私たちの「世界」の様相を浮かび上がらせます。絵画、ドローイング、アニメーション、版画などの手法を使って、過去の出来事への鋭い批評、土地が持つ歴史や神話、植民地化や戦争の歴史、風景や自然の中に潜在する過去との接続や時間の流れ、生と死という生命の時間など、アーティストそれぞれの問題意識や関心から複数の積層した時間が描き出された作品を紹介します。
4月29日(火・祝)
11:00〜11:30 淺井裕介
13:30〜14:30 風間サチコ/ユアサエボシ
15:00〜15:30 松﨑友哉
6月14日(土)、7月12日(土)、8月9日(土)、9月13日(土)
時間:14:00〜15:00
淺井裕介、サム・フォールズ、藤倉麻子、今津 景、風間サチコ、ウィリアム・ケントリッジ、アンゼルム・キーファー、近藤亜樹、松﨑友哉、西村 有、ゲルハルト・リヒター、チトラ・サスミタ、ヴィルヘルム・サスナル、杜珮詩(ドゥ・ペイシー)、リュック・タイマンス、ユアサエボシ
杜珮詩(ドゥ・ペイシー) Pei-Shih Tu
(1981年 苗栗県・台湾生まれ、台北在住)
アニメーションとコラージュを組み合わせ、現実と虚構の間にある「歴史」や「真実」を問う作品で知られる。彼女の映像作品では、一見、無邪気でカラフルな牧歌的光景が繰り広げられるが、実は歴史的な事件や実在の人物を主題にしており、現実にあった暴力や破壊の物語が描かれる。現代社会における植民地化やグローバル資本主義の権力の問題を、多幸感に満ちて燦然とした色彩のもと皮肉に表現する作風で、国際的評価を得ている。
風間サチコ Sachiko Kazama
(1972年 東京都生まれ、同地在住)
「現在」起きている現象の根源を「過去」に探り、「未来」に垂れこむ暗雲を予兆させる黒い木版画を中心に制作する。一つの画面に様々なモチーフが盛り込まれ構成された木版画は漫画風でナンセンス、黒一色のみの単色でありながら濃淡を駆使するなど多彩な表現を試み、彫刻刀によるシャープな描線によってきわどいテーマを巧みに表現する。風間は作品のなかで、現代社会や歴史の直視しがたい現実が、時には滑稽でコミカルに見えてしまう場面を捉えようとしている。そこには作家自身が社会の当事者であるよりも、むしろ観察者でありたいという意識が反映されている。作品はフィクションの世界だが、制作に際しては古書研究をするなど独自のリサーチを徹底し、現実や歴史の黒い闇を彫りおこすことで、真実から嘘を抉り出し、嘘から真実を描き出す。
ユアサエボシ Ebosi Yuasa
(1983年 千葉県生まれ、同地在住)
2005年東洋大学経済学部卒業。2008年東洋美術学校絵画科を卒業。34歳頃から、自分が過去に生まれていたらこういった作品をつくっていたのかもしれないと思いつき、「大正生まれの架空の三流画家であるユアサヱボシ」という設定で絵画制作に取り組んでいる。描いた作品を歴史に落とし込み、架空のユアサのプロフィールとブレンドしていくという手順によって、架空のユアサの画歴や作品に関わる設定が、作品の誕生に伴って更新され続けている。描いた絵画のみならず、架空のユアサという人物の創造によって、歴史の上書きも意図されている。
今津 景 Kei Imazu
(1980年 山口県生まれ、バンドン・インドネシア在住)
今津は、インターネットやデジタルアーカイブといったメディアから採取した画像を、コンピュータ・アプリケーションで加工を施しながら構成、その下図をもとにキャンバスに油彩で描く手法で作品を制作している。
近年の作品は、制作・生活の拠点であるインドネシアの都市開発や環境汚染といった事象に対するリサーチをベースにしたものへと移行。それらは作家自身がインドネシアでの生活の中でリアリティを持って捉えたものである。同時に、今津は現在起きている問題の直接的な表現に留まらず、さまざまなアーカイブ画像を画面上で結びつけることで、インドネシアの歴史や神話、生物の進化や絶滅といった生態系など複数の時間軸を重ね合わせ、より普遍性を持つ作品へと発展させている。地球環境問題/エコフェミニズム、神話、歴史、政治といった要素が同一平面上に並置される絵画は、膨大なイメージや情報が彼女の身体を通過することで生み出される。
チトラ・サスミタ Citra Sasmita
(1990年 バリ島・インドネシア生まれ、シンガラジャ在住)
チトラ・サスミタはバリ出身の現代アーティストで、作品ではバリの芸術と文化の神話や誤解を解明することに焦点を当てている。彼女は社会階層における女性の地位について深く問いかけ、ジェンダーの規範的な概念を覆そうとしている。女性像とさまざまな自然要素を表現した構図は、サスミタが自身の作品で発展させてきたカサマン・スタイルのバリ絵画の言語で描かれている。ヒンドゥー教とバリ島特有の参照を含む神話的思考に根ざしながらも、これらの場面は、家父長制後の未来における世俗的で力強い神話を想像するという現代的なプロセスにも等しく含まれている。
ヴィルヘルム・サスナル Wilhelm Sasnal
(1972年 タルヌフ・ポーランド生まれ、クラクフ在住)
1992年から2年間、クラクフのタデウシュ・コウスチュスコ工科大学で建築を学んだ後、クラクフの美術アカデミーで絵画を学ぶ。1999年、同絵画科卒業。ヴィルヘルム・サスナルの絵画の題材は、ありふれた日用品、歴史上の人物、自身が撮影した風景、友人や家族のスナップ写真、インターネットやマスメディアの掲載画像など多岐にわたる。彼の芸術活動は社会的、政治的、文化的テーマを反映した幅広い主題とスタイルを包含するが、とりわけ歴史に一貫した関心を持ち、ホロコーストに言及した作品もある。作品の多くは短期間で描き上げられ、時間の経過の痕跡を感じさせないシンプルで簡潔なアプローチを特徴とする。油画のほか、写真や映像作品でも知られる。
リュック・タイマンス Luc Tuymans
(1958年 モルツエル・ベルギー生まれ、アントワープ在住)
イメージの力学を冷静に追求し、その根底に潜む道徳的な観念を詳らかにしながら現代社会を問いかけている。イメージに備わる伝達力の強さと物事を歪曲し隠蔽する力を同時にカンバスに示し、選びぬかれた主題を絵の具とカンバスだけで描き出す核心的な表現を特徴とする。モチーフには既存の画像などを用い、その主題と地域の歴史性の関わりを慎重に考察しながら、有名人の肖像やアイコニックなシンボル、人気のTVや映画の場面などをクリティカルに選びぬいて描き出す。独特の淡い色彩はそれがレプリカであることを強調し、イメージという存在のゆらぎや記憶と歴史の曖昧な関係性に深く言及していく。
アンゼルム・キーファー Anselm Kiefer
(1945年 ドナウエッシンゲン・ドイツ生まれ、パリ・フランス在住)
戦後ドイツを代表する画家であり、ドイツの歴史、ナチス、大戦、リヒャルト・ワーグナー、ギリシャ神話、聖書、カバラなどを題材にした作品を、下地に砂、藁、鉛などを混ぜた巨大な画面に描き出すのが特色である。
大学で法律を学ぶがやがて芸術を志し、ヨーゼフ・ボイスに師事する。69年、さまざまな場所でナチスの敬礼のポーズを取る自分自身を撮影した一連の写真「占領」を発表、激しい論争を巻き起こす。また「あしか作戦」シリーズ(1975)では、ナチスの無謀なイギリス侵略計画をテーマとするなど、ドイツの負の歴史を敢えて呼び覚まし、現代人の心を揺さぶった。一方で北欧神話、ギリシャ神話あるいは旧約聖書から題名を採ってくることで、作品を神話的世界へ導く。キーファーの用いる実に多様な素材による物質感と深遠なテーマ、その巧みな結合が強い刺激を与える。インスタレーションなど、表現形態もさまざまである。思想性を重視するキーファーの作品は、人間の本質、根源的なものについて考えることを現代人に迫る。
ゲルハルト・リヒター Gerhard Richter
(1932年 ドレスデン・ドイツ生まれ、ケルン在住)
東ドイツ政府の下、美術教育を受けたが、西ドイツ旅行中に出会った抽象表現主義に強い影響を受け、ベルリンの壁のできる半年前にデュッセルドルフへ移住。1962年に新聞の写真をもとにした《机》を発表。以後、あらゆる存在を反映する基盤として「シャイン」(光、見せかけ、仮象)をテーマとし、高度な絵画技術をもって多様なスタイルを同時期に並行させ、可視性と不可視性、写真と絵画、現実と虚構との境界を行き交いながら、「見ること」を探求し続けている。
ウィリアム・ケントリッジ Willian Kentridge
(1955年 ヨハネスブルク・南アフリカ共和国生まれ、同地在住)
ケントリッジは演劇学校を卒業後、1970年代から1980年代にかけて、演劇やテレビ番組の制作に携わった。1990年代には、南アフリカのアパルトヘイト廃止と時を同じくして、ケントリッジのライブシアター作品や、木炭画から発展させた詩的なモノクロストップモーションアニメーションで注目を集めたが、2000年以降は独自の表現をさらに発展させ、映画や演劇への愛情を織り交ぜた作品を制作している。その結果、映像、音楽、テキスト、彫刻オブジェクトで構成される一連のインスタレーションが生まれた。複雑で感情的、そして観る者を圧倒するような、演劇の場面を思わせる作品で知られている。
本展で紹介する5チャンネル・ビデオ・インスタレーション作品《時間の抵抗》は、時間と空間、植民地主義と産業の複雑な遺産、そしてアーティスト自身の知的活動について30分間瞑想する作品である。
松﨑友哉 Tomoya Matsuzaki
(1977年 福岡県生まれ、ロンドン・イギリス在住)
松﨑はロンドンと東京を拠点に活動している。ジェスモナイト(Jesmonite)と呼ばれる水性樹脂を用いた支持体に絵画を制作する画家。石板を思わせる独自のキャンバスには穴が穿たれ、厚みのある平面には抽象的な図柄が見られる。野草採集やゲストを招いての食事会等の開催を機に、風景を構成する諸要素についての考察を推し進め、環境やエコシステムにも着眼点を置いた実践に取り組む。展覧会のセルフ・キュレーションや、プロジェクトスペースの立ち上げにも携わるなど多彩な活動に従事。
西村 有 Yu Nishimura
(1982年 神奈川県生まれ、東京都在住)
ふと目にした日常の風景や出来事、自身の記憶の断片を1枚のカンヴァスの中で重ね合わせることで、作家が感じた風景の構築に取り組んでいる。ひとつのモチーフを起点に、湧き上がるイメージを組み合わせ、描き残しを作ったり、イメージを重ねたりすることで思考の変化や過程を画面に留める。素早いタッチで絵具を重ねる手法は、輪郭線にズレやブレを生じさせ、時間の流れや動きを与えるとともに、モチーフ自体も変容させていく。画像が氾濫する現代において、リアルとアンリアルの境界が不確実であるという時代の空気感を、絵画という古典的な手法によってその可能性を探求する。
サム・フォールズ Sam Falls
(1984年 バーモント・アメリカ合衆国生まれ、ロサンゼルス在住)
サム・フォールズは、写真の根本的な原則である「時間」、「表現」、「露出」に深く関わり、さまざまな芸術媒体と、アーティスト、対象物、鑑賞者との間の隔たりを埋める作品を制作している。自然や環境と共生しながら制作されるフォールズの作品には、制作された環境特有の場所の感覚が刻み込まれていると同時に、普遍的な死の感覚が浸透している。美術史への敬意を払いつつ、フォールズは、モダンダンスやミニマリスト絵画からコンセプチュアル写真やランドアートまで、芸術のジャンルや手法の境界線を共感的に曖昧にしている。そして、芸術が最もよく表現する自然の原理と生命のはかなさという本質に還元している。
近藤亜樹 Aki Kondo
(1987年 北海道生まれ、山形県在住)
近藤は力強い色彩と躍動感あふれる筆致であらゆる生命への希望や慈しみを描き続ける。「描くことは生きること」という近藤にとって、制作とは自らが見たい世界を描き出し、描くことで自己を認識するプロセスでもある。その創作はキャンバスやパネルにとどまらず、立体物や壁、天井といった空間全体にも自在に広がる。また、約14,000カットに及ぶ油彩アニメーションと実写を融合させた短編映画『HIKARI』では、脚本・監督・制作を手がけるなど、様々な表現活動で才能を発揮している。
藤倉 麻子 Asako Fujikura
(1992年 埼玉県生まれ、同地在住)
都市・郊外を横断的に整備するインフラストラクチャーや、それらに付属する風景の奥行きに注目し、主に3DCGアニメーションの手法を用いた作品を制作している。近年では、埋立地で日々繰り広げられている物流のダイナミズムと都市における庭の出現に注目した空間表現を展開している。近年の展覧会に、「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」(森美術館、2025)、第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館「中立点̶生成AIと未来」(ヴェネチア・ビエンナーレ日本館、2025)などがある。
淺井裕介 Yusuke Asai
(1981年 東京都生まれ、同地在住)
淺井は、土、水、マスキングテープなど身近な素材を用い、あらゆる場所に奔放に絵を描き続ける。旅のチケットやコースターの裏に描かれた小さなドローイングから、室内を覆い尽くすような巨大壁画まで、作品を受け止める場所や環境にしなやかに呼応するように、その作品のスケールは様々である。
淺井の作品は、主に、各地で採取した土と水で描く「泥絵」シリーズ、アスファルト道路に用いられる熱溶着式路面標示シートをバーナーで焼き付けて描く「白線」シリーズ、マスキングテープに耐水性マーカーで描く「マスキングプラント」シリーズの三つに分類され、アトリエでの個人の制作にとどまらず、屋外の大規模なプロジェクトでは、友人やボランティアなど第三者との共同作業を交えながら制作する。変化を受け入れながら成長を楽しむように作られていくその過程は、都市に不足し必要とされる「野生」を植え付けていくかのごとくダイナミックに展開される。
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
芸術文化振興基金
OMO5金沢片町 by 星野リゾート
北國新聞社